今日は雪だった。ここでは、少しでも積もるのは年に数回しかない。川縁を歩いて下っていると、散歩中の犬に出会った。耳の垂れた、白っぽい毛の犬だった。尻尾を振ってうれしそうに走り回りながら、雪の中に鼻を突っ込んでいた。私はもちろん走り回らなかったし、鼻も突っ込まなかったが、白くなった景色と雪をふむ音を楽しんでいた。
雪を面白がるとはなかなか高度な知性を持っているものである。年に数回しか雪は積もらないのだから、30年生きた人間でも、積もった雪をみられたのは高々90回程度である。犬は十数年しか生きない。そう年おいてもみえないその犬は、今までに何度雪景色を走りまわったろうか。
数人の中学生が歩いていた。一人が雪を取って投げる。二度目には一人が傘で打ち返そうとした。アッパースイングに雪はくだけて飛び散った。
再び犬に出会った。柴犬の彼は平然と散歩し、雪など眼中に無いようだった。