国家的見地からのミーガン法の経済学

ある犯罪の再犯者率(犯罪者のうち再犯者がしめる割合)がpであったとする。ミーガン法によって、再犯者率が例えば、1/3になるとする。どのような効果が期待できるだろうか?

  • 答え

2 p/3 x(t)件ほどその犯罪が減ることを期待できる。ここでx(t)はその年度のミーガン法を実施しなかったと仮定したときの総当該犯罪者数である。
再犯率(既に処分された犯罪者のうち一定期間内に(あるいは死ぬまでに)また犯罪を犯す者の割合)がq'であったとする。ミーガン法によって再犯率1/3倍になるとする。どのような効果が期待できるだろうか?

  • 答え

こっちは即座にはわからない。

しかし、再犯しそうだから(再犯率が高いから)監視するという考え方には直感的な説得力がある。一方、再犯者率が高いときに監視するべきかどうかは、直感的には、よくわからない。
実際にはどうなのか考えてみる。

言葉と記号の定義

  • 犯罪者数 x(t): 年度tにおいてその犯罪を犯す人間の数。
  • 再犯者率 p(t): 年度tの犯罪者のうちの、再犯者(過去にこの犯罪を犯したことがある人間)の割合。
  • 再犯確率 q: 過去に処分された犯罪者それぞれについて*1、今年度中に犯罪を犯す確率。その犯罪者の処分終了後n年以内の再犯率 q'1 - (1 - q)^nとなる。*2
  • 既犯者数 X(t):年度tにおける処分終了後の犯罪者の数*3
  • ミーガン法の効果: 再犯確率をr倍にする*4。つまり、再犯確率がqrになる。

補題

定義からあきらかに
p(t) x(t) = q X(t)
が成り立っている。

定理 1

ミーガン法を実施すると、再犯者率は再犯確率と同様にr倍になる。
証明は補題より明らか。

言葉と記号の定義

  • ミーガン法実施のコスト c(X(t)): c微分は負ではないと仮定するのが自然である。
  • 犯罪による損失: 一件あたりの(「コスト」に換算された)損失をlとする。

定理 2

ミーガン法は次の条件をみたすときに実施されるべきである。
 p(t) (1 - r) l x(t) - c(X(t)) > 0
つまり、犯罪減少による"損失の減少"が法の施行によるコストを上回るときに実施すべきである。

一件あたり同じ損失lをもたらす犯罪aとbについて、次の不等式が成り立つとき、ミーガン法はbよりもaに適用すべきである。
 {(1 - r) l} (p_a(t) a(t) - p_b(t) b(t)) - (c(A(t)) - c(B(t))) > 0
特に、

  • p_a(t) a(t) > p_b(t) b(t)
  • A(t) \lt B(t)

の少なくとも一方が成立する。

発生件数が同じ A(t) = B(t), a(t) = b(t)ならば、再犯者率が高い犯罪に優先的にミーガン法を適用すべきである。

まとめ

再犯率は重要ではない。効果を簡単に計算できるという点で、再犯者率(と犯罪件数)で考えることが優れている。どちらも、再犯確率とは違って、調査によって知ることができる量であることにも注意して欲しい*5*6 *7

捕捉

再犯者率再犯率は異なる。再犯率で考えなければならない」というような議論が散見されるので:

http://sheepman.parfait.ne.jp/20050109.html
2005-01-04

http://sheepman.parfait.ne.jp/20050110.html

  • 最大限投資した(全員に対策した)時の効果を元にコストパフォーマンスを比較してもあまり意味がありません。1円投資して2円回収するほうが、100万使って150万回収するよりいい、といっているようなものです。*8
  • コストが人数に比例するという仮定もどうかと思います。
  • 判断基準として、再犯確率には正確にはわからないという欠点があります。

*9

追記(2005-01-30)

sheepmanさんから反論を頂きました。
それへの反論を書きました。

*1:犯罪者の個性は考えない。犯罪の性質によると考えられるので、qは定数とする。tに依存するとしても以下の議論には影響しないが

*2:再犯確率は一般的な用語ではない

*3:例えば、平均的な懲役期間をP、犯罪者になってからの寿命をQとすればX(t) = \sum_{s = t - Q}^{t - P} x(t)であると考えられる

*4:複数年の合算である再犯率をr倍にすると考えるよりも自然な仮定である

*5:再犯者率は後にはわかる。再犯確率は、確率であるからアプリオリである。予測するとしても再犯者率と、既犯者数から計算することになる

*6:後半の効用の計算は別のモデルが考えられるが、いづれにせよ、計算に必要なのは再犯者率と既犯者数である

*7:当然ながら、「重要ではない」というのは、再犯率が既犯者数と再犯者率に無関係であるという意味ではない。再犯率が低く、再犯者率が高ければ、既犯者が多いということなので、コストは高い。しかし、再犯率のみからは効用は計算できない。

*8:監視する個人の立場からみれば、国民全体総利得よりも、自分の出費が少ないほうがよい、という考え方もありますが

*9:コストが人数に比例すると仮定し、(なぜだか)コストパフォーマンスを比較するときにだけ、再犯確率だけで話ができるようになる。既犯者の数を同じと仮定して議論するのなら、再犯確率で考えることに意味はない