国家的見地からのミーガン法の経済学
ある犯罪の再犯者率(犯罪者のうち再犯者がしめる割合)がであったとする。ミーガン法によって、再犯者率が例えば、になるとする。どのような効果が期待できるだろうか?
- 答え
件ほどその犯罪が減ることを期待できる。ここではその年度のミーガン法を実施しなかったと仮定したときの総当該犯罪者数である。
再犯率(既に処分された犯罪者のうち一定期間内に(あるいは死ぬまでに)また犯罪を犯す者の割合)がであったとする。ミーガン法によって再犯率が倍になるとする。どのような効果が期待できるだろうか?
- 答え
こっちは即座にはわからない。
しかし、再犯しそうだから(再犯率が高いから)監視するという考え方には直感的な説得力がある。一方、再犯者率が高いときに監視するべきかどうかは、直感的には、よくわからない。
実際にはどうなのか考えてみる。
言葉と記号の定義
補題
定義からあきらかに
が成り立っている。
定理 2
ミーガン法は次の条件をみたすときに実施されるべきである。
つまり、犯罪減少による"損失の減少"が法の施行によるコストを上回るときに実施すべきである。
まとめ
再犯率は重要ではない。効果を簡単に計算できるという点で、再犯者率(と犯罪件数)で考えることが優れている。どちらも、再犯確率とは違って、調査によって知ることができる量であることにも注意して欲しい*5。*6 *7
捕捉
「再犯者率と再犯率は異なる。再犯率で考えなければならない」というような議論が散見されるので:
- 最大限投資した(全員に対策した)時の効果を元にコストパフォーマンスを比較してもあまり意味がありません。1円投資して2円回収するほうが、100万使って150万回収するよりいい、といっているようなものです。*8
- コストが人数に比例するという仮定もどうかと思います。
- 判断基準として、再犯確率には正確にはわからないという欠点があります。
*1:犯罪者の個性は考えない。犯罪の性質によると考えられるので、は定数とする。tに依存するとしても以下の議論には影響しないが
*2:再犯確率は一般的な用語ではない
*3:例えば、平均的な懲役期間をP、犯罪者になってからの寿命をQとすればであると考えられる
*4:複数年の合算である再犯率をr倍にすると考えるよりも自然な仮定である
*5:再犯者率は後にはわかる。再犯確率は、確率であるからアプリオリである。予測するとしても再犯者率と、既犯者数から計算することになる
*6:後半の効用の計算は別のモデルが考えられるが、いづれにせよ、計算に必要なのは再犯者率と既犯者数である
*7:当然ながら、「重要ではない」というのは、再犯率が既犯者数と再犯者率に無関係であるという意味ではない。再犯率が低く、再犯者率が高ければ、既犯者が多いということなので、コストは高い。しかし、再犯率のみからは効用は計算できない。
*8:監視する個人の立場からみれば、国民全体総利得よりも、自分の出費が少ないほうがよい、という考え方もありますが
*9:コストが人数に比例すると仮定し、(なぜだか)コストパフォーマンスを比較するときにだけ、再犯確率だけで話ができるようになる。既犯者の数を同じと仮定して議論するのなら、再犯確率で考えることに意味はない